010 蓮

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名 称
ハス
学 名
Nelumbo nucifera
科・属
ハス科
ハス属
特 徴
多年性水生植物
原 産
アジア
花時期
6月〜8月

2009年07月16日

2005年の7月21日、僕たちは「明るい部屋」の
オープニング記念パーティの準備に追われていた。
コウモリランや赤ドラセナ、変わった多肉植物に草盆栽、そうかと思うと
ジャイアントリリーなどがドーンと置いてある・・・
そんな和洋折衷の植物があふれる不思議な「部屋」を作るために、
僕たちは、棚を白く塗ったり、鉢の植え替えしたりといった作業に追われていた。

ところが、夜中の12時を過ぎても、作業は一向に終わらないのである。
もう1ヶ月も前からオープンの日時は決めてあり、
既に招待状も出してあるにも関わらず、やっぱり、間に合わないのだ。
こうなったら徹夜で作業し続けるしかない・・・
そんな覚悟を決めたとき、不意に、蓮に関するある「噂話」を思い出す。

蓮は夜明け前に開花する。
だから、あまり人には知られていないのだけれど、
開くときに「ポン!」という何とも言えない独特な音をたてる・・・という噂。

折しも、この日にちょうど開花するよう気をつかって仕入れた蓮があった。
もしかしたら、今日はその蓮の花を巡る噂話が本当かどうかを確かめるための
絶好の機会なのではないか。
もしも「ポン!」という音を実際に聴くことができたなら、
今日の徹夜作業は、一生忘れられない特別な日になるはずである。
そんな期待を頼りに、僕たちは眠い目をこすりながら作業し続けた。

ところが、もしも「ポン!」という音がしなかったとしたら、
長年確かめたいと抱き続けた事が
単なる噂話にすぎないと思い知らされることになる。
そうなると、ずっと考えてきた夢が、現実に打ち負かされてしまう日として
この日が記憶されることになってしまうのではないか・・・
そんな妙な心配も浮かんできたりする。

鳴るといいね、聴いてみたいね、あと1時間くらいかな、
などと言いながら、僕たちは相変わらず、台を白く塗ったり、
器に穴を空けたりといった作業に追われていた。
夜中の3時頃には、突然お巡りさんがやってきて、
こんな遅くに何やってるの? ここは、いったい何屋さん? いつオープン?
などと、質問だか尋問だかわからないことを聞かれたりする。
時間がない時に限って、邪魔が入る、
ガラステーブルの設置とか、額縁に絵を入れたりとか、
まだまだやるべきことがたくさんあるというのに・・・
焦りながら、作業に追われ、ふと気がつくと、
あたりは完全に明るくなっていて、
白い蓮の花は、美しく開ききっていた。

はたして、音は鳴ったのか・・・
とうとう確認できなかったのである。
そこには、何事もなかったかのように、ただ、蓮の花が広がっていた。

その後、ネットなどで調べてみると、
蓮の花が「ポン!」と鳴るというのはガセネタである、という意見が多く、
中には、実際に確認してみたTV番組などもあったらしい。
しかし、昔から様々な文献に、蓮の花の音を聴いた話が登場するのもまた事実で、
特に、正岡子規の句には、「蓮開く 音聞く人か 朝まだき」とか、
「朝風に ぱくりぱくりと 蓮開く」などとあったりして、
写生主義を標した子規が、完全にフィクションで詠んだとも思えないのである。

もしかしたら、「ポン!」という音が聞こえるか聞こえないかは、
物理的なことではないのかもしれない。
昔の人に聞こえていた音が、今の我々には聞こえない、
そういう音もあるのかもしれない。

毎年、この時期になると、「明るい部屋」には必ず蓮の花がある。

Comment(1)

koo 2011/07/26 13:10

「朝風に ぱくりぱくりと 蓮開く」この句はとてもいいですね。
鳴るといいね、聴いてみたいね、あと1時間くらいかな…という会話のある時間に
蓮はきっと音を作っていて、音は鳴ったのだと思います。

人や植物の会話やざわめきが聞こえてくる、このコラムとても好きです。

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